「事業場」と「事業所」の違いとは?法的な観点で解説

労務の仕事をしていると「事業場」と「事業所」という言葉が出てきます。何が違うんですか?

そんな疑問にお答えします。

労働法や社会保険の手続きを調べていると「事業場」と「事業所」という言葉がでてきます。

この2つの言葉は、それぞれ別の意味を持っており、しっかり理解することが大切です。

今回は、事業場と事業所の違いを詳しく解説します。

執筆者

北 光太郎
社会保険労務士

きた社労士事務所代表

元ITエンジニアで社労士Webライター
労務専門のWebライターとして人事労務関連記事を200記事以上執筆・監修。
2019年から個人で人事労務の情報を発信し、現在
労務専門サイト「労サポ」を運営している。

目次

事業場と事業所の違いとは

労務の仕事をしていると「事業場」と「事業所」という言葉が出てきます。

同じような意味合いでとらえている方もいらっしゃると思いますが、基本的に以下のような違いがあります。

  • 事業場:同じ場所で同じ働き方をしている所。工場の中の食堂は別の事業場になる。
  • 事業所:同じ場所で同じ事業をしている所。工場の中の食堂も併せてひとつの事業所になる。
事業所と事業場

なお、「事業場」と「事業所」の使い分けは、法律によって以下のように分かれています。

  • 労働基準法・労働安全衛生法:事業場
  • 労働保険:事業所
  • 社会保険:事業所

上記のように法律で定義されていることを覚えておきましょう。

また、労働基準法では「事業所」という言葉は使われておらず、社会保険では「事業場」という言葉は使われてません。

加えて、労働保険と社会保険の「事業所」は少し意味が異なります。

次から、法律ごとに定義を詳しく解説します。

労働基準法・労働安全衛生法の事業場とは

労働基準法と労働安全衛生法の「事業場」は、一つの場所が一つの事業場として見るかは、主に場所によって決められる(同じ場所か遠く離れた場所か)としています。

同じ場所にあるものは基本的に一つの事業場として扱われ、場所的に分散しているものは別々の事業場とされるということです。

ただし例外として、場所的に分散していても規模が非常に小さく、一つの事業場とみなせる独立性がない場合は、一つの事業場として扱われるとしてます。

また、同じ場所にあっても、労働の形態が著しく異なる部門がある場合には、その部門を主要な部門と切り離して別々の事業場としてみなすとしています。

たとえば、工場の中で作業場と食堂が同じ場所にある場合には、働き方が全く異なるため、別々の事業場として労働基準法や労働安全衛生法を適用するということです。

事業場

なお、事業場の業種の区分については、「その業態によって個別に決まるもの」とされており、事業場ごとに業種を判断します。

たとえば、製鉄所は「製造業」ですが、経営や人事の管理を主に行っている本社は「その他の事業」と分類されるということです。

つまり、36協定を締結は「事業場」単位であるため、製鉄所と本社の2つで締結が必要になります。

※参考1:労働安全衛生法「昭和47年9月18日発基第91号通達の第2の3「事業場の範囲」
※参考2:厚生労働省 東京労働局「そもそも事業場とはなんですか?

労働保険の事業所とは

労働保険は「事業」という単位で成立します。

この「事業」とは、工場や事務所、商店、建設工事など特定の場所で組織的に関連し合って行われる経営活動のことを指します。

つまり「事業所」とは「事業を行っている場所」で区分されるということです。

そのため、会社に複数の支店や工場がある場合は、基本的には支店や工場が一つの事業場となります。
※参考:福井労働局「労働保険の適用

たとえば、東京本社と大阪支店がある場合は、事業場が2つあることになり、それぞれで労働保険が適用されるのが原則ということです。

事業所

ただし、雇用保険・労災保険では以下のように定義もされています。

雇用保険の事業所

雇用保険の事業所の定義は以下のとおりです。

  • 場所的に他の(主たる)事業所から独立していること
  • 経営(または業務)単位としてある程度の独立性を有すること(人事、経理、経営上の指導監督、労働の態様などである程度の独立性を有すること)
  • 一定期間継続し、施設としての持続性を有すること

ただし、雇用保険の適用において「事業所の単位」と「労働保険の徴収法施行規則上の事業場の単位」は原則として一致すべきであるとされています。

したがって、特定の事業所を認めるかどうかの判断は、徴収法施行規則上の事業場の単位との関連性に注意を払う必要があります。(業務取扱要領(雇用保険適用関係)22002(2))

※参考:厚生労働省「平成27年9月30日施行の改正労働者派遣法に関するQ&A[第2集]Q6

労災保険の事業所

労災保険の事業は、「主たる業態」に基づき決定されています。
※参考:厚生労働省「労災保険の業種について

たとえば、本社工場の同じ敷地の中に食堂があり、それぞれに従業員が数人いる場合、本業の(従業員が多い)工場の労災保険(料率)で食堂の労災保険も適用するのが原則です。

労働基準法や労働安全衛生法の事業場とは異なるので注意しましょう。

社会保険の事業所とは

社会保険の事業所も労働保険と同様、「事業」を行っているところを「事業所」とするのが原則です。

しかし社会保険の事業所は、人事や給与計算を行っている所を事業所とみなすことができます。
※参考:日本年金機構「一括適用

たとえば、東京本社と大阪支店がある会社で、東京本社で人事機能が備わっている場合は、大阪支店を含めて本社が一括して社会保険の手続きを行うことができるということです。

労働保険の事業所とは少し意味合いが違うことを覚えておきましょう。

まとめ

今回は「事業場」と「事業所」の違いについて解説しました。

それぞれ法律によって解釈が違ったり例外があったりなど、混乱しやすい言葉ですが、原則は以下のとおりです。

  • 事業場:同じ場所で同じ働き方をしている所。工場の中の食堂は別の事業場になる。
  • 事業所:同じ場所で同じ事業をしている所。工場の中の食堂や診療所も併せてひとつの事業所になる。

「事業場」と「事業所」の違いを理解して、正しく言葉を使用しましょう。

以上、この記事がお役に立てれば幸いです。

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